勿忘草の咲く頃に
| 「あれは何?先生」 「山吹(ヤマブキ)」 「あれは?」 「都忘れ(ミヤコワスレ)」 「じゃあ、あれ」 「馬酔木(アセビ)」 山での任務を終え、現地解散となった為そのまま帰り道をデートとし、カカシとナルトは、 草花が咲き誇る柳暗花明な山をゆっくりと散策している。 「すっげぇーってばよ、カカシ先生。先生って知らない事って無いんじゃ?」 初春の山は、晩春にはやや劣るが、それでもけっこうな花が咲いており、いつの間にか、手当たり次第にナルトが聞いてくる花の名前を、カカシが答えていくという会話になっていた。 すげぇーと連呼しているナルトを見ながら、カカシは苦笑を禁じえない。 「全部アカデミーで習ったはずだよ?草木は自然の忍具だからねぇ」 「え〜、オレ知らないってばよ」 眠ってたでしょ?と言う言葉はあえて飲み込んだ。 「それにさ、何で忍具になるんだってば?」 「お前ねぇ・・・例えばコレ」 そう言ってカカシは、先程答えたばかりの、白くて可憐な小花を房状に咲かせている 馬酔木の葉を千切る。 「呼吸中枢を麻痺させる有毒が含まれている。ま、この木は葉っぱだけじゃなく、枝にも毒は含まれているが、毒を抽出しやすいのは・・・ってオイ」 ナルトは既に、立ったまま寝ると言う特技を披露していた。思わずゲンコツ一つ。 「痛ぇってばよ先生」 「人の話は聞きましょうね?」 ついでにそのまま、両頬をムギーっと引っ張ってやる。 ナルトは急いでカカシの両手から逃げると、頬をスリスリしながら反論してきた。 「だってさ、だってさ。どの花にどんな毒があるのを知ってたってさ、毒なんて最初っから 用意しとけばいいーじゃん」 「切れたりする事だってあるだろ?敵に盛られる事だってあるし。そしたらいち早く正確な解毒薬を飲まないとね。と言うか毒ってのは元々がこうした草花から作るもんなんだから。それにね、毒や薬としてじゃなくて、暗号としても使われるんだぞ?」 「う・・・暗号・・・」 暗号、と言う単語を聞いただけで、眉をしかめて拒否反応を示すナルト。 そんなナルトに再び苦笑しつつも、カカシは講義を続ける。 「五色米と同じようなもんだよ。最初から意味を決めている事も有るけど、その花言葉をそのまま使い、それから意味を転じさせる方が多い。草木を使った伝達は緊急時が殆んどだからな」 そう言いながら、まだ手に持ったままの馬酔木の葉をナルトの眼前に持っていく。 「これの花言葉は『あなたと二人で旅をしよう』。それから転じて数字の二を表す。敵は二人とか二里先で合流とか・・・まぁ、その場に合わせて色々。・・・おーい」 ナルトは今度は、魂を半分抜けかけせていた。 ナルトの頭から煙が見えるような気もする。 カカシはもう一度苦笑をすると、手触りの良いナルトの頭に手を置いてボフボフと軽くバウンドする。 「ま、知らないんなら、これからぼちぼち覚えればいいさ」 そのままナルトの肩に腕をまわし、再び歩き出した。 ナルトはまだ眉をしかめ、口を尖らせてうなっている。 そんなナルトを苦笑しつつも可愛いと思っていると、何か意を決したように見上げてきた。 「ねえ先生」 「ん?何?」 「それってさ、やっぱ火影になるには覚えなきゃいけない事?」 「ま、いけないって事じゃないとは思うけど」 「思うけど?」 「火影になるような人なら、これくらいは知っている。と言うか忍者なら知ってて当たり前なんだが」 「むーーっ」 再び盛大にうなると、今度は直ぐに意を決して見上げ、宣言した。 「だったらオレ、覚えるってばよ」 オレは火影になるんだー。と、拳を天に突き立てて叫ぶナルトを見ながら、カカシは微笑ましくもあり寂然としたものも感じると言う、複雑な心境になる。 最近自分は、ナルトは本当に将来火影になるのではと思っている。目を見張る成長は何も、体術・忍術だけじゃなく、今のように苦手なものを夢のために克服しようとする姿勢など、精神面も甚だ急成長している。 今まで何も与えられなかったから、砂が水を吸収するように、与えられるもの全てを飲み込んでいる。もっとも、 (ナルトの凄さはあの性格だな。絶対に何も諦めないあの強さ。 たった十二歳であの強さ。一体どれ程の絶望を経験して、尚且つ克服すれば、こんなに揺ぎ無い強さを持てるんだろうなぁ) それを素直に凄いとは思うが、この年端もいかぬ子が、ここまでの強さを身に付けなければ生きていけなかったのかと思うと、悲愁を感じずには居られない。 例えそれが、ナルトの境遇を事実としてでなく知識としてしか認識をせず、見て見ぬふりをしてきた己に対する欺瞞であると解かっていても。 でもこれからは違う。 俺が守れる全てのものからナルトを守ろう。 俺が教えられる事は全て教え、共に歩いていこう。しかし、 (今更・・・なのかなぁ) 未だに拳を掲げ、何やら騒いでるナルトを見ながら思う。 (ナルトは俺と共に歩いてくれるだろうか。このままじゃ俺、置いてかれそうなんだけど) 急成長しているナルトと、既に限界を知っている自分。 サスケが羨ましいと思う。 これから共に成長していく二人は、きっと自然にともに歩む道を選ぶだろう。 イルカ先生が羨ましいと思う。 初めてナルトをナルトとして認めた人間。初めての家族。 そしてナルトの帰る場所となった。 共に歩まなくても、ナルトの帰る場所となれた。 じゃあ、自分は何だろう? ナルトにとって俺は何なんだろう? 「恋人って、曖昧だよなぁ・・・」 「へ?何?カカシセンセー」 「何でもな〜いよ」 思わず零れた言葉を、聞き逃したナルトが聞き返してきたが、俺は頭をワシワシと撫でながら誤魔化した。 髪をグシャグシャにされて怒っているナルトに笑う事で更に誤魔化し、女々しい不安を抱える自分も誤魔化した。 俺とナルトは上司と部下、教師と生徒。そして恋人。 友としての絆も無い、家族としての絆も無い、ただ、好きと言う曖昧で不安定な気持だけで繋がっている恋人と言う関係。 愛と言うには、まだ幼すぎるナルトとの関係。 ナルト自身がまだ幼いゆえ、愛と言うには程遠い関係。 そもそも、と思う。 (九尾の器と言う偏見で、今までナルトは敬遠されていた。 しかし忍びとなった今、沢山の人があいつ自身を認め始めている。 あいつと少しでも関る事があれば、あいつを認めない人間が居るだろうか? 俺はたまたま、最初にあいつを求めた人間ってだけのことではないのか?) たまたま最初に言い寄った人間。 これからナルトは、きっと大勢に言い寄られ始めるだろう。 だったらその時は? 自分に、俺以外にも好意を寄せている者のがいると知ったらお前はどうする? 自分は実は、多くの人に認められる人間なんだと自覚をしたら? それでもお前は俺を選んでくれる?傍に居てくれる? 「ナルトはさー」 「何〜?」 「俺のこと好き?」 「A」 一瞬で赤くなったナルトは、少し照れながら、それでもとびきりの笑顔で返してくれた。 「大好き@」 そう言ってバフっと抱きついてきたナルトを抱き返しながら、腕に閉じ込める為に跪くと、 ナルトの眼と同じ色をした花が目に飛び込んできた。 鮮やかな空色の小花が無数に穂となって咲いている、清純で可憐な花。 勿忘草。 何もかもが、ナルトを連想させる花だった。 俺はそれに手を伸ばし、一束ほど手折ると、ナルトに差し出した。 「これ何?カカシ先生」 「あげる」 「そうじゃなくてさ」 「勿忘草」 「ワスレナグサ?」 「そう。・・・勿忘草ってさ、俺にとってはナルトの花なんだよね。 色とか姿容とかがさ」 そうなの?ありがとうだってば。とナルトは嬉しそうに受け取りながら、香りを楽しんでいたりする。 俺はそっと心の中で付け加える。 (花言葉とかがさ・・・) いつかの日か置いて行かれるだろうという、予測に近い不安。 それでも良いと思う。 それはナルトが元気に夢に向かっている事だから、それでも良い、と思える。 それ位にはナルトを盲目的に愛しているつもりだ。 それでなくても、忍びの仕事は危険に満ちている。 考えたくも無いが有り得ない話しでもない。 そしておそらくは自分の方だ。 もしかしたらナルトの心変わりで離れるかもしれない。 あいつが本当に望むなら、あいつが幸せになれるのならば、俺もそれを望むだろう。 ただ、 (どんなに離れても、時々で良い。時々でいいから俺のことを思い出して欲しい) だからお前に、この花を贈ろう。 勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』。 死に行く者が、この花を掲げ、私を忘れないでと叫んだ事が由来とされる花言葉。 永遠に離れる事になっても、自分を忘れないで欲しいという願いが込められた花。 俺実はさ、サスケがすっげー羨ましいんだよね。 自分の為にあっさりと死を選んだサスケは、きっとナルト中では消えない傷となっているだろう。 己の為に死を選んだ者がいる。自分が死なせてしまった者。 それは優しいお前には、一生消えない傷となって残った。 俺はお前の傷になりたいわけでも、お前に消えない傷を残したいわけでも無いけど、それでもやっぱり羨ましいんだよ。 どんな形でも、一生お前に忘れられない存在になれたんだからさ。 だからお前に、この花を贈ろう。 勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』。 俺がナルトに贈る花としては、出来すぎた花じゃない? そんな事をつらつらと考えながら歩いていると、ナルトが急に俺の手を離し、近くの草叢に駆け寄り、ある花を数本摘んできて俺に差し出した。 それは花茎の先に、紅紫色の唇弁を俯き気味に咲かせた敦盛草。 俺は心の底から驚いた。 「これを俺にA」 「うん!だってこれってば先生の花だから」 「え・・・な、何で?」 「色が車輪眼の色だってばよ。それと変な所。 そしてこの俯き具合が猫背の先生にピッタシだってばよ!」 ナルトは悪戯をした時の、してやったりという様な顔でニシシと笑っていたが、俺は又もやナルトの意外性と出くわし、目を見張っていた。 ナルトが勿忘草の意味も、ましてやこの花の意味を知っていた訳では無い。 だからこそ、俺は驚いた。 『君を忘れず』。 花言葉の由来はあまり縁起の良いものではないが、それでもこの花に込められた願いは死んでも君を忘れない。 死んだ君を忘れない。 『君を忘れず』。 ナルト、お前って出来すぎてやしないか? お前が知っていて贈ったって訳じゃ無いって解かってるけどさ、俺、その気になっちゃうじゃない。・・・その気になって良い? 俺はお前にとって、忘れられない存在、忘れたくない存在だって。 俺が目を見開いたまま固まっているのに気づいて、ナルトが不審気に顔を覗き込んで来る。 「センセー、この花嫌いだったってば?」 「あっ。違う違う。ちょっと嬉しすぎてな。ビックリしてたんだ」 俺が慌てて敦盛草を受け取り、そのふわふわの頭を撫でてやると、気持よさそうに目を細めて、再び俺の、花を受け取った手と反対の手を取って歩き出した。 いつもいつも、意識的にも無意識的にも、俺の心を癒してくれるナルト。 「ありがとうナルト」 「どーいたしましてだってばよ。んで、その花って何?」 「敦盛草」 「アツモリソウ?もしかして先生と一緒でスケベな花?」 「由緒正しいある若武者の名前が由来の花だよ」 「えー。何かそれってかっこ良い。何かズリィー」 よく分からない事を言っているナルトを見て、俺はある事を思いついた。 「ねえナルト。来年もこの時期にここに来ようか」 「うんっ。良いってばよ」 「そしたら来年も、ナルトに勿忘草を摘んであげるからね」 「じゃあさ、じゃあさ。俺も先生にアツモリソウをあげるってばよ!」 「楽しみにしているよ」 カカシはふっと微笑むと、ナルトの手と敦盛草の感触を愛しんだ。 ナルト、来年もこの時期にここに来よう。毎年来よう。 毎年、お前に勿忘草を贈るから、敦盛草を俺に頂戴。 いつまで同じ時を並んで過ごせるのかは分からないけれど。 いつか二つの花の意味が解かっても、お前は俺にくれるかな? ・・・まあ、ひとまずは来年ってことで。 ナルト、来年もこの時期にここに来よう。 勿忘草の、咲く頃に。 過去の遺物第5弾。とてつもなく季節外れで申し訳ありません(汗) 基本的に私が書くカカシは、精神的にはナルとより弱いです。そして甘党; お持ち帰り小説にしましたが、誰が貰ってくれるのだろう。こんなもの・・・。 花言葉は良いですよね。あと万葉集も。 02 10 10 |
| 卑弥貴様、HP開設記念!お持ち帰り小説です。 これからはWebで活躍されますので、楽しみが増えますvv 02.10.11 |
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